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スパイシーな牛肉のしぐれ煮でピリ辛サラダ - 読売新聞

表舞台に立つ人がいるとき、それは裏方と呼ばれる人たちによって支えられている。自分はどっちなんだろう?と考えるまでもなく、表舞台に立たせていただいている。ただ最近、少しずつ考え方が変わってきた。

本当は表舞台に立つことに向いていないんじゃないか、という気がしてきたからだ。何かの依頼をいただいたとき、「面白そう! 関わりたい! でも、出るのが自分じゃなかったらベストなのに」と思うことが増えた。裏でサポートにまわる活動も少なからずあるけれど、なんだかそれが心地よいのだ。

冷蔵庫に余っている牛肉を手に、ふとそんなことを考え出してしまった。たとえば、料理にも「表舞台と裏方の関係」は当てはまる。この牛肉に僕は裏方として活躍してもらおうと思っているのだ。

大きめのボウルに肉を入れてたっぷりの熱湯を注ぎ、色が変わったらざるに上げ、冷水でよく洗う。水気を切ってまな板にのせ、包丁で細かく切る。裏方の仕事は地味で手間がかかる。こういう作業をしているとき、自分がワクワクしていることに気づく。この先にできあがる表舞台をイメージしているからだ。

高校時代に地元でコンサート会場の設営アルバイトをよくしていた。大きなアリーナに何十人もが集まり、鉄パイプやら板やらを運び、監督の指示の下、舞台を作っていく。このバイトの魅力は、時給がまあまあよかったことと弁当のボリュームが多かったこと、そして、コンサートを聴けることだった。

舞台が完成し、本番が始まる前に僕たちは会場内の所定の位置につく。本番中は警備員になるのだ。ルールはひとつ。決してステージを見てはいけない。ステージに背を向けて客と向き合い、観察しながら2~3時間を過ごす。視界には狂喜乱舞するお客さん、耳からはアーティストの歌とバンドの演奏。不思議な時間だったことを思い出す。

この牛肉料理は、あのコンサート会場におけるバイトの僕らと同じである。鍋に調味料を入れて煮立たせ、牛肉を加えたら、中火で煮汁がほとんどなくなるまで1時間近くコトコトと煮続けるのだ。ときおり鍋の中をかき混ぜるのと、途中でしょうがを加える以外、派手な動きはない。地道に煮続ける。

コンサートのバイトの時は、白状してしまうと、疲れてきたらしばらくトイレにこもってサボったりしていたのだけれど、この牛肉たちは鍋の中で逃げ場がないからサボるわけにはいかない。ひたすら煮詰まった汁の味わいが、牛肉に吸いこまれたり、牛肉に絡まったりするまで加熱が続くのだ。

コンサートが終わると、客が帰り、残された僕らは舞台をばらし始める。設営するときと同じ力仕事が最後にもう一度待っているのだ。結局、最後までアーティストを目にする機会はない。それでもあのバイトを何度も何度もしていたのは、やっぱりあの仕事が楽しかったからだろう。

一度だけ、舞台をばらしているときにアーティストを目にしたことがある。一瞬だけだったが、とあるロックバンドのメンバーが楽屋を出て車に乗り込む途中で、会場の扉から顔をのぞかせ、「おつかれさまでしたー!」と一声かけていったことがあった。わずか2秒ほどの出来事だったが、ドキドキした。本物を見られた喜びと、あの人たちを少しでも支えられたという喜びが入り交じったものだったんじゃないか、と今は思う。

さて、牛肉が煮詰まった! このままなら「牛肉のしぐれ煮」として、ご飯にでもかけていただくこともできる。が、せっかくだからスパイシーにして、さらにこの牛肉を味わい深くしたい。準備したのは、刺激が強めのスパイス3種。クミンはツンとした香り、ブラックペッパーとレッドチリはご存知の通り、独特の風味と辛みを併せ持つ。

肉とスパイスをよく絡め合わせれば、舞台の準備は整う。そう、これはまだ裏方の仕込み。アーティストの登場はこれからなのだ。

彩り豊かな野菜、旬の野菜、食べたい野菜を準備。食べやすいサイズに切ってボウルに入れ、オリーブ油と塩を絡め合わせて器に盛る。最後に僕たちアルバイトの牛肉がパラパラと振りかけられるのだ。ぎゅっと味のしみ込んだ地味な、いや、滋味深いしぐれ煮は、ピリリとした刺激とともにフレッシュな野菜たちの味わいを引き立てる。

表舞台と裏方の関係は、サラダにだって存在するのだ。さあ、お食べ。アーティストの歌が聴こえるかい?

◆牛肉のしぐれ煮ピリ辛サラダ
【材料】
牛肉(モモ・バラ・肩など切り落とし) 600グラム
調味料
・酒          180ミリリットル
・水          180ミリリットル
・みりん        70ミリリットル
・しょう油       70ミリリットル
・砂糖         50グラム
しょうが(すりおろし) 30グラム
パウダースパイス
・ブラックペッパー   小さじ1
・レッドチリ      小さじ1
・クミン        小さじ1
好みの野菜       適量
オリーブ油・塩     各適量
【作り方】
牛肉を熱湯にサッとくぐらせ、冷水につけて水気を切り、細かく切っておく。鍋に調味料を入れて強火で煮立て、牛肉を加えて中火にして煮汁がほとんどなくなるまで45分~1時間ほど煮る。途中でしょうがを加えて絡め合わせ、最終的には煮詰めるような感じに。火から下ろして3等分し、パウダースパイスをそれぞれ混ぜ合わせる。できあがったら冷蔵庫で1週間~10日ほど保存可能。サラダのトッピングなどに。

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水野仁輔
水野仁輔(みずの・じんすけ)
カレー&スパイス研究家

 1974年静岡県浜松市生まれ。99年に男性12人の出張料理集団「東京カリ~番長」を結成。各地で食のライブキッチンを開催するほか、世界のスパイス料理やカレーのルーツを探求中。著書は40冊を超え、近著に「水野仁輔 カレーの奥義」(NHK出版)、「スパイスカレー事典」(パイインターナショナル)、「いちばんやさしいスパイスの教科書」(パイインターナショナル)、「幻の黒船カレーを追え」(小学館)、「水野仁輔のスパイスレッスン」(中央公論新社)など。2016年にスパイスをレシピとともに届ける「AIR SPICE」を設立。

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May 15, 2020 at 04:00AM
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