「ホルモンうどん」で有名になった岡山県津山市
ご当地グルメのコンテストで数年間にわたり上位に食い込んだ「ホルモンうどん」が名物の街だ。
聞くところでは、津山はホルモンうどんだけではなく、独自の牛肉文化があるという。
岡山県の北東部の盆地にある人口約10万の小都市に、なぜ独自の牛肉文化が根付いているのか。
現地に向かい、地元の観光協会の担当者に話を伺ってきた。
牛肉をよく食べる津山人、お城でBBQも
話を聞かせてくださったのは森元 哲人(もりもと あきひと)さんだ。
──津山という土地は、ホルモンうどんをふくめ、牛肉をよく食べるんですか?
森元さん(以下敬称略):はい、とてもよく食べます! 私たち地元の人間は当たり前すぎて気付かないかもしれませんが(笑)。たとえば、家族や友達などと外食しようと思ったら、まず焼肉です。家庭でも、魚介類より断然肉が多いですね。しかも、お年寄りでも肉が大好きで良く食べているんです。だから元気なお年寄りが多いのはそのおかげかもしれません。ちなみに、津山は10万人規模の都市ですが、人口のわりに焼肉店は多いですよ。鉄板焼き店や精肉店もたくさんあるし、スーパーの精肉売場も広いですし。
──みなさんそんなに焼肉が好きなんですか?
森元:津山市民の肉好きがわかるエピソードがあります。かつて津山中心部は津山城の城下町でした。津山城は「日本三大平山城」のひとつでして、「鶴山(かくざん)公園」として国の史跡に指定されているんです。津山城には桜がたくさん植えられていて「さくら名所100選」に選ばれており、春になると岡山県屈指の花見スポットになります。そんな国指定史跡の津山城ですが、花見の時季になると津山市民は津山城内でバーベキューをするんですよ!
▲桜が見頃になる頃の津山城址、鶴山公園(画像提供:津山市観光協会)
──普通、史跡の中でバーベキューなんてありえないですよ。叱られます……。
森元:そうですよね、それが、なぜだか津山城に限って認められているんです※。しかも、会場でバーベキュー用の七輪の貸し出しも堂々とやっていて。よく考えるとすごいことです。ただ史跡ですから、あとで原状復帰しなければなりません。その後片付けなどをするのが、私たちの仕事なんですけどね(笑)。
※鶴山公園(津山城)内でも、一部バーベキュー等を禁止している箇所があります。
江戸時代の「養生食い」から始まった
▲津山市観光協会がある津山観光センター。初めて訪れるならまずはここで情報収集するのもアリ
──昔から津山は牛肉を食べていたのですか?
森元:古い時代から、津山では牛を育てていました。といっても、その頃は農耕用や輸送用の牛です。今でいうトラクターやトラックなどの代わりですね。そして、牛を売る市(いち)も盛んにおこなわれていました。古くは西暦705年に、牛馬市が現在の津山市域で開かれていた記録が残っています。江戸時代の津山藩の領内でも同様です。津山は、山陽側の姫路と山陰側の松江を結ぶ街道「出雲街道」が通っており、交通の重要拠点。だから、牛を育てて売るという産業が発達し、国内屈指の牛の流通拠点になったんです。津山を中心とした美作一帯で育てたられた牛は「作州牛」と総称されました。現在も津山周辺で育った食用の牛を作州牛と呼ぶのですが、牛のブランド名ではありません。
──もともとは、食用以外の牛を育てて売っていたんですね。
森元:はい。ただ江戸時代は、牛肉を食べるのは御法度。そんな時代に、津山藩の領内では牛肉を食べることを江戸幕府に許可されていたといわれます。農耕用・輸送用の牛が中心でしたが、健康のための滋養強壮の食材として牛肉を食べる文化があったからなんですよ。これを「養生食い(ようじょうぐい)」といいました。牛肉の養生食いこそが、津山の牛肉文化の原点なんです!
──養生食いは初めて聞きました。
森元:牛肉の養生食いは、津山のほかにも、近江国の彦根藩も認められていたといわれています。現在でも滋賀県彦根市には焼肉店が多く、肉好きな土地柄だそうです。津山と似ていますよね。
──養生食いの下地があったから、明治以降に牛肉文化が発展したのでしょうか?
森元:そのとおりです。津山は、明治時代に牛肉が解禁されると、たちまち牛肉の名産地になったんです。そのせいか、当時は神戸に住む外国人も牛肉には困らなかったそうです。現在は、2016年(平成28年)に誕生したブランド和牛「つやま和牛」をアピールしています。なので、まだ流通量は少ないのですが、とてもおいしい肉ですよ。
「ホルモンうどん」で一躍有名に
▲津山ホルモンうどんのパンフレット
──たくさん牛肉を食べる津山市ですが、脚光を浴びるようになったのは最近ですね。
森元:そうなんです。2000年代になって、津山独自の肉文化に着目し、観光の目玉にしていこうという動きが生まれました。そんなときに白羽の矢がたったのが「ホルモンうどん」。もともと一部の鉄板焼店や焼肉店などで食べられていたサイドメニューで、裏メニューやまかない料理扱いでしたが、各家庭では具材にホルモンを入れる習慣は根付いていました。
──ホルモンうどんはすでに身近だったんですね。
森元:でも、最初は地元の人間は観光の目玉になるような食べ物ではないと思っていたんですよね。単に具材にホルモンが入っているただの焼きうどんで、当たり前すぎて特別なものではなかったから。食べられているエリアもごく狭いエリアでしたが、これは津山をPRできる料理だろうということで名物として売り出したんです。
──ホルモンうどんも、さかのぼれば養生食いにつながっているんでしょうか?
森元:もちろんです。養生食いのおかげで食肉処理技術が発達して、新鮮なホルモンが安くたくさん手に入ったんです。ご存じのとおり、ホルモンは内臓肉なので、特に鮮度と処理が重要。その点、津山は名物になりうるのに十分な環境が整っていました。
──ホルモンうどんが注目されたのはいつ頃からでしょうか?
森元:2005年(平成17年)4月に現在の「津山ホルモンうどんマップ作成委員会(現:津山ホルモンうどん研究会)」が発足し、本格的にPR活動を始めました。その後、2009年(平成21年)にはご当地グルメの大会に参加して初入賞し、翌年、翌々年と受賞したのがきっかけで、全国的に注目されるようになったんです。
「小腸入り」「味噌+醤油ダレ」が必須事項
▲これがホルモンうどん! 後ほど詳しく紹介しよう
──ところで、ホルモンうどんの特徴はどんな点でしょう?
森元:昔から食べられているものなので「ホルモンを具材にした焼きうどん」以外の定義を見いだすのは難しいですが、主に次のような共通点・特徴があります。
- ホルモン(内臓肉)の種類は作り手によってさまざまだが、必ず「小腸」が入る
- タレは味噌味と醤油味を合わせたもの
──なるほど、小腸とはかなり具体的。
森元:ホルモンといえば、広い意味では内臓肉全般を指し、狭い意味では小腸を指すんですね。だからか、必須というか、小腸から出る脂の味わいがホルモンうどんのポイントなんです。あとは、どんな内臓肉をピックアップして入れるのか、あるいは小腸一本でいくのか、これがお店や作り手の個性につながります。
──ホルモンだけでも、個性が十分出ると。
森元:そのとおりです。あとタレもお店によっては、ほぼ味噌味のところもあれば、逆にほぼ醤油味のところもあったり、ブレンド具合は様々です。ほかにもうどんの麺やホルモン以外の具材、とくにタマネギの焼き加減も個性を出す上で大事なポイントになってますよ。
津山の「四大牛肉料理」とは
森元:津山ホルモンうどん研究会の活躍で、津山もすごく注目されるようになりました。ただ津山に来ても、ホルモンうどんを食べたらそれで終わりのお客さんも多くて……。実はホルモンうどんは津山の牛肉料理のひとつにしかすぎません。そこで、津山は歴史ある牛肉文化を育んだ土地であることを知ってほしいんです。中でも「津山の四大牛肉料理」はぜひ味わってほしいですね。
※ホルモンうどんを入れると五大牛肉料理
──津山四大牛肉料理!?
森元:ひとつずつ紹介しましょうか、まずは「干し肉」。
▲肉のうま味がギュッと詰まった干し肉は、お酒との相性も抜群(画像提供:津山市観光協会)
森元:名前のとおり天日干しした肉です。牛モモ肉が使われることが多いですね。元来は保存食でビーフジャーキーを連想されるのですが、干し肉は生で食べられないので、炒めたりして加熱して食べます。津山にお越しになった際は、こちらで局地的に飲まれている「瓶チュー」というお酒とぜひいっしょに召し上がってみてください。絶妙にマッチしますよ。
次は「煮こごり」。
▲比較的寒い時期の名物、牛の煮こごり(画像提供:津山市観光協会)
森元:煮こごりは、魚で作るのが普通ですが、津山では牛肉で煮こごりを作ります。牛スジを煮込んで作るんですが、酒のアテはもちろん、ホカホカごはんに乗せれば、最高のごはんのお供になります!
続いて「そずり肉」。
▲そずり鍋。もともとは食肉加工の業者が食べていた、まかない的な肉だったという(画像提供:津山市観光協会)
森元:これは正確には料理ではなく部位の名前ですね。「そずる」とは「削る」という意味の方言です。牛のアバラ骨にまとわりついた肉を削ぎ落とした肉のことなんですよ。削いだ肉なのでひとつひとつは小さめですが、骨のまわりは栄養がタップリでおいしいんです。焼いてもおいしいですが、私のおすすめはそずり肉を入れた寄せ鍋「そずり鍋」ですね。
最後に紹介するのは「ヨメナカセ」。
▲どうしても名の由来を考えてしまうヨメナカセ(画像提供:津山市観光協会)
森元:これも料理ではなく部位の名前です。心臓のまわりにある大動脈、つまり血管のこと。コリコリとした食感が最高で、焼いたり、揚げて天ぷらにします。名前の由来は「調理がしにくい食材なので、お嫁さんが料理するときに困る」とか「おいしいので姑が嫁に食べさせない」など、いろいろな説がありますね。
津山の牛肉文化を楽しめる「櫓 城下店」
ホルモンうどんに四大牛肉料理と、さまざまな牛肉料理がある津山。
実は、津山市の中心部・津山城のふもとで、ホルモンうどんや四大牛肉料理を含む津山の牛肉を堪能できるお店がある。
それが「〜城下町肉処〜 櫓(やぐら) 城下店」だ。
▲櫓 城下店の店内
牛肉を楽しめるお店が意外に少ない津山市中心部にあって、この城下店は観光客・ビジネス客にもありがたい存在だ。
小腸プリプリ、麺もっちりのホルモンうどん
実際に櫓 城下店の「ホルモンうどん」と「津山肉御膳」を食べたので、紹介したい。
まずは、ホルモンうどん(税込900円)から。
▲鉄板の上にホルモンうどんが盛り付けられて登場。ジュージューと音を立てながら、カツオ節が踊る!
櫓では、全部で9種類の新鮮なホルモンを使用しているという。
入っているのは、小腸・大腸・盲腸・直腸・心臓・ミノ・ハチノス・センマイ・アカセン。
店主の話では、当日の朝にさばいたものを仕入れていて、日本で一番新鮮なホルモンとのこと。
▲要の小腸はプリプリで甘く、皮はモチモチ
▲地元の製麺業者が作る麺は、もっちりとした食感だ。デンプンが多めになっていて、焼きうどん向けに作られたものだという
▲タレは味噌味メインで、甘めのコッテリとした味わいながら、子供からお年寄りまで食べやすい味だ。ピリ辛感が欲しい場合は、卓上のトウガラシを振りかけよう
名物定食で、肉の食感の違いを楽しむ
続いては、津山肉御膳(税込1,980円)。干し肉・そずり肉・ヨメナカセ・煮こごりが楽しめる定食だ。
なお、ヨメナカセの代わりにホルモン(大腸、小腸)にすることもできる。
▲すごい、このボリューム!
▲干し肉・そずり肉・ヨメナカセは、熱々の鉄板の上に盛り付けられる
なお残念ながら、この日は煮こごりの入荷がなかったため、代わりに牛スジ煮込みとなった。
▲まずは、左に盛り付けられている干し肉炒めから
▲噛みごたえのある食感で、噛むたびに塩味と肉の旨味がジワジワ滲み出てくる。
これは確かに酒のアテにいいかも。もちろんごはんも進む
▲次は、真ん中に盛り付けられたヨメナカセの炒め物
▲表面はコリコリとした食感がするが、中はプニプニと弾力のある不思議な味わい。ヨメナカセは、淡白な味わいでコショウの風味と合う
▲最後に右に盛り付けられたそずり肉とタマネギの炒め物
▲そずり肉は、赤身と脂身がバランスがよく、脂身の甘みがおいしい。そして、タレの甘辛さとよく合う。さらに、タマネギのシャキシャキ感が絶妙だ
▲なお、煮こごりの代わりの牛スジ煮込みだが、こちらもとてもおいしい。トロッとしたとろけるような食感。甘辛い味付けでごはんが進む
レバーが苦手でも食べやすい牛レバニラ定食
名物料理を堪能したところで店主、北村 暢宏(きたむらのぶひろ)さんに話を聞いてみる。
▲櫓の店主、北村 暢宏さん。実家は精肉店で「牛肉のことなら自信アリ」とのこと
──ホルモンうどん、津山肉御膳のほかにもおすすめはありますか。
北村:そずり肉は煮ても旨味が出ておいしいので「そずり鍋うどん」(税込900円)も味わってほしいです。希少な津山のブランド牛「津山和牛ハンバーグ」(税込1,500円)もありますよ。 あと名物もいいですが、地元のお客さんに評判な「牛レバニラ定食」(税込980円)なども試してほしいです。レバーが苦手な人もおいしいと言うほど食べやすいですよ。ちなみに津山の人は、レバー好きが多いような気がします。
──レバニラは定食の定番ですが、津山で食べると一味違う気がします。
北村:レバニラは津山ならではの料理ではありませんが、みんなが知っている定番の料理だからこそ、牛肉のおいしさがわかるのではないでしょうか。同じく定番の「ステーキ御膳」(税込2,980円)もそうですね。あと、うちは昼はランチで、夜は焼肉をやっています。レバニラと同じ理由で、夜の焼肉で定番の部位もぜひ! なお夜の焼肉でも、干し肉、そずり肉、ヨメナカセ、各種ホルモンが楽しめますよ。
──津山の人は本当に牛肉料理が好きなんですね。
北村:養生食いで発達した食肉加工技術のおかげで、津山では新鮮で品質のいい肉が出回るんです。岡山県のような人口や面積だと、食肉センターは県庁所在地に1カ所あれば十分なんですよ。でも県庁所在地のほかに、人口がそんなに多くないエリアの津山にも食肉センターがあります。これはかなり稀なケース。それほど津山では、牛肉をよく食べるということなんです!
こちらの「櫓 城下店」は、観光で来た人もビジネスで来た人も訪れやすく、津山の牛肉料理がたくさん堪能できるおすすめのお店だ。
店舗情報
〜城下町肉処〜 櫓 城下店
住所:岡山県津山市山下97-1 津山市観光センター1階
電話:0868-22-2959
営業時間:11:00〜14:00、18:00〜21:30
定休日:不定休
※駐車場あり(無料、ただしさくら祭り期間中は有料)
「牛の煮こごり」は白飯のおかずにも最高
心残りなのが、今回いただけなかった「煮こごり」だ。
実は、津山市内の精肉店やスーパーの精肉売り場などでは、津山四大牛肉料理が売られていたりする(お店によっては取り扱いがない場合もある)。そのため、煮こごりは比較的容易に入手しやすいアイテムだ。
▲さっそく津山市内のスーパーマーケットで煮こごりを売っていたので、買って帰って食べてみた
▲プルプルとした、寒天のような印象
▲ホカホカごはんに乗せて食べてみた
甘辛い味付けと牛スジの味わい、少しだけ入ったトウガラシのピリ辛感で、たしかにごはんが進む。
ごはんの熱で少し煮こごりが溶け、汁がごはんにからまると最高だ。
津山は日本の牛肉文化の聖地
日本でも早くから牛肉文化が根付いていた津山。今でも特有の牛肉文化があるのは、とてもおもしろい。
しかも、庶民の味なのでリーズナブルなメニューも豊富だ。
津山では、2016年(平成28年)からゴールデンウィークに津山城で牛肉料理を楽しむ「牛魔王(牛うまっ王)」というイベントを開催している。津山の牛肉を使ったいろいろな料理が堪能できるので、訪れてみてはいかがだろうか。
"牛肉" - Google ニュース
March 16, 2020 at 05:30AM
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江戸時代から肉食が続く「牛肉王国」津山でホルモンうどん、干し肉、そずり肉、ヨメナカセを食べる - メシ通
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